甲状腺疾患とは

甲状腺疾患のイメージ

甲状腺とは、のどぼとけの直下にあって、蝶が羽根を広げたような形をしている重さ10~20gほどの小さな臓器で、全身の新陳代謝や成長促進にかかわるホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌しています。ちなみに男女で甲状腺の位置は異なり、女性の方が男性よりもやや高い位置にありますが、どちらも気管を取り囲むように位置しています。

甲状腺の病気(疾患)については、主に甲状腺から分泌されるホルモンの量が変化する病気、甲状腺内に腫瘤(しこり)が発生する病気(腺腫様甲状腺腫、嚢胞、腺腫、甲状腺がん、悪性リンパ腫 など)、腫瘤(しこり)からホルモンが分泌される病気(プランマー病 など)に分けられます。なお分泌量が変化する病気については、甲状腺ホルモンが増える病気として甲状腺ホルモンが過剰につくられる甲状腺機能亢進症(バセドウ病、プランマー病など)と甲状腺ホルモンが甲状腺から漏れ出てくる破壊性甲状腺炎(無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎 など)があり、甲状腺ホルモンが不足する病気として甲状腺機能低下症(橋本病(慢性甲状腺炎)、手術後甲状腺機能低下症、アイソトープ治療後 など)があります。これらの病気を発症の原因については、完全に特定されたわけではありませんが、自己免疫が関係しているとされ、バセドウ病や橋本病は、自己免疫疾患のひとつでもあります。なお、甲状腺疾患は、女性によく見受けられる病気で、男女比は1:5とも言われています。

また甲状腺疾患を発症すると甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝に関わるホルモンですので以下の表にあるような症状がみられますが、これらは日々の多くの女性が感じていることでもあるので、なかなかご本人が気づくことは困難かもしれません。そのため自己判断はせず、原因不明の体調不良につきましては、当院を一度ご受診ください。

甲状腺疾患でよくみられる症状(例)

(甲状腺ホルモンが高いとき)
安静にしているのに、心臓がドキドキする
手指が細かく震える
暑がりになり、水をよく飲み、汗をたくさんかく
よく食べているのに痩せてきた
イライラしやすくなった
落ち着きがなくなった
(甲状腺ホルモンが低いとき)
体が冷え、寒がりになった
肌が乾燥し、カサカサする
体が重く、だるさを感じる
食欲が無いのに、太ってきた
朝起きた時に、顔や手がむくんでいる
便秘しやすくなった
昼間も眠く、居眠りをするようになった
脈がゆっくり静かになった
(両方に見られるとき)
首に腫れがある
月経不順になった

主な甲状腺疾患

バセドウ病

甲状腺ホルモンが過剰につくられる甲状腺機能亢進症のひとつで、最も代表的な疾患です。バセドウ病は自己免疫疾患でもあり血液中の中に甲状腺を刺激(攻撃)する抗体がつくられ、これが甲状腺を刺激することで、過剰に甲状腺ホルモンを分泌させてしまうのです。女性の患者数が多く、その比率は、男性1人に対して女性4人ほどと言われています。

バセドウ病では甲状腺ホルモンが過剰につくられますので、新陳代謝が盛んになり、動悸、息切れ、多汗、微熱、手指のふるえ、いくら食べても痩せてくる、精神的高揚、筋力低下といった甲状腺中毒症状もみられます。頻脈から心房細動になることもあります。またバセドウ病に特徴的なびまん性甲状腺腫、眼球突出、が現れるようになります。

破壊性甲状腺炎(無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎)

甲状腺ホルモンが増える病気としてはバセドウ病が多くを占めますが、このバセドウ病と同様に甲状腺ホルモンが増える病気として無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎があります。ともに原因は明らかではありませんが、無痛性甲状腺炎は自己免疫異常が、亜急性甲状腺炎はウイルス感染が関連しているとも言われています。バセドウ病と同様に甲状腺ホルモンが増えますが、甲状腺でホルモンをたくさん作っているのではなく、甲状腺の中で炎症を起こし、甲状腺の中に蓄えられている甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出てきている状態です(破壊性の由来になります)。したがってバセドウ病と同じ症状でも治療法が全く異なりますので、甲状腺ホルモンが増える理由をしっかり区別する必要があります。

橋本病(慢性甲状腺炎)

甲状腺ホルモンの作用不足によって起きる甲状腺機能低下症では、代表的な疾患のひとつに数えられています。橋本病もバセドウ病と同様に自己免疫異常が原因で甲状腺が徐々に破壊し、それによって甲状腺ホルモンを作ることができなくなります。

甲状腺ホルモンの分泌量が不足すると、新陳代謝は低下し、全身に色々な影響を与え様々な症状が現れるようになります。具体的には、無気力になって頭の働きが鈍くなる、忘れっぽくなるといった症状が出ます。人によっては認知症の原因の1つにもなります。このほか、やたらと寒がる、皮膚が乾燥してカサカサになる、体全体がむくんでいく、髪が抜ける、常にボーッとして活動的でない状態もよく見受けられます。この病気は40~50代の中年女性が発症しやすいと言われています。

なお橋本病の患者さまの身体的な特徴として、硬く、表面がゴツゴツした甲状腺の腫れがあります。

甲状腺腫瘍

甲状腺内に腫瘤ができている状態が甲状腺腫瘍で、良性と悪性があります。甲状腺良性腫瘍には、腺腫様甲状腺腫、嚢胞、腺腫などです。悪性腫瘍には、甲状腺がん(乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん)、悪性リンパ腫があります。

悪性腫瘍でみられる主な症状ですが、乳頭がんや濾胞がんでは自覚症状はなく、未分化がんでは結節が急激に大きくなり、発赤や疼痛も現れます。また髄様がんでは、硬い甲状腺腫が現れ、悪性リンパ腫に関しては比較的急速に甲状腺の全体的な腫れがみられます。

またプランマー病(甲状腺機能性結節)は、甲状腺に発生した腫瘍が甲状腺ホルモンをつくり出し、そこから甲状腺が過剰に分泌されるようになるのですが、この場合は甲状腺機能亢進状態になるので、バセドウ病と同様の症状が出るようになります。治療をする場合は、主として腫瘍を取り除く手術療法です。

なお、甲状腺の良性腫瘍に関しては経過観察の場合が大半ですが、腫瘍自体が大きい、腫瘍があることで、呼吸困難や嚥下障害などが起きるなどの場合は腫瘍摘出の手術療法が適用されます。悪性腫瘍に関しては、甲状腺を摘出するなどの手術療法、放射線治療、化学療法が行われますが、他の部位に転移していないかを調べてから、病態に合った治療を行います。